“世界”を知る

「包装技術」より、包装に関連する世界動向などを扱った記事を抜粋してお届けいたします。

世界の動きを読むことで、日本や包装の進むべき道の模索にお役立ていただければと存じております。

第 20 回2026年
8月号

包装技術 隔月連載
パッケージを取り巻く世界の動向

揺れるEUのPPWR(包装・包装廃棄物規則),今後の展望

株式会社 パッケージング・ストラテジー・ジャパン

取締役社長 森 泰正

UNITED for our FUTURE

EUのPPWR(包装・包装廃棄物規則)は2025年に発効し,2026年8月から段階的に適用が開始される。大枠のルールは規則本文で定められているが,具体的な基準や評価方法などの詳細な運用ルールは,今後欧州委員会が策定する「委任法」と「実施法」に委ねられている。このためPPWRには曖昧で抽象的な表現が多く,規制される包装業界には不満が数多く寄せられている。これを受けEU委員会は3月末に「指針」(Guidance document)を公表した。

この指針に対し,欧州を代表する業界団体Europenは,まだ業界が抱える疑問と懸念には答えていないと次のようにコメントした。

「EU委員会が策定した指針が漸く公開された。だがPPWRの対象になっている企業が必要とする法的根拠と運用上の明確性を提供するには依然として不十分だ。PPWRに適合するための企業の最終投資決定は依然として保留された状態にあり,法令遵守の計画を進めることができず,EU市場のサプライチェーンの混乱は収まらない」。

「明確で統一された実行ルールがなければ,企業は行動することができない。現在は,投資とイノベーションを加速すべき時期であり,このままではEUの産業競争力は更に低下する」と危機感を表明した。

「EUの包装企業は,PPWRに適合する体制づくりに引き続き全力で取り組んでいる。しかし取り組みだけでは不十分だ。業界が一致協力して行動を起こすには,一貫性のある法的指針と,実施に間に合うように二次法規(委任規則,実施規則)を迅速に整備する必要がある」。

「EU理事会が重視している規制遵守と産業競争力の強化は,今こそ具体的な進展に繋げなければならない。Europenは現実と目標のギャップを埋めるため,EUの行政機関と包装業界の間で,迅速かつハイレベルな対話を行うことを求める。我々に残された時間はあまりない。進むべき明確な指針を示し,実行上の障壁をなくさなければ,PPWRの実現可能性は困難な状況に陥る。将来世代のためにも,EUの包装業界の競争力と成長力を阻害する深刻な状況をつくりだしていけない」と警告を発している。

4月にCoca-Cola,McDonalds’,Heineken,Kraft-Heinz,Mondelezなどの幹部を含む,100社以上の食品,飲料,包装業界のCEOからなる連合が,EU委員会に対し,PPWRの施行延期と主要条項の修正を求める書簡を送付した。その内容は,PPWRの法的明確性が欠如していること,ガイダンス発行が遅延したこと,未解決の技術的課題(食品包装材に対するPFAS検査方法の統一性の欠如など)が,企業のコンプライアンス遵守を困難にし,投資リスクを生み出していると指摘している。

これに対し6月には,包装関連大手企業200社のCEOが連名で,EU委員会に反対意見の共同書簡を送付した。地政学的緊張,関税問題に象徴される国際貿易のルール変更,エネルギーと原材料のコスト上昇などが,欧州産業に深刻な影響を与えていると署名者は指摘,PPWRの理念の円滑な移行を進めることを優先すべきであると訴えている。

書簡では,PPWRの枠組みを見直しするのではなく(註:原文では ’without reopening the core framework’という表現を使用している),二次法をベースに規則の方法論,定義,要件を明確にして速やかに実行することが何より重要であり,これを実現するためには,業界団体や技術専門家との協議を経て「強固で根拠に基づく」二次法の制定を急ぐべきと主張している。そしてその規則は,現在のEU市場の実態や技術進歩を踏まえ,循環型経済行動計画(Circular Economy Action Plan)や,欧州グリーンディール(The European Green Deal)といったより広範で基本的なEU政策との整合性が重要であると強調している。

書簡の署名者にはAmcor,Mondi,Constantia Flexibles,Aldi,IKEA,Plastics Recyclers Europe,Flexible Packaging Europe,Aluminium Closures,Advanced Packaging Association,LyondellBasellなど多くの業界団体や企業のトップが名を連ねた。

この書簡とは別に,CEFLEXもEU委員会にPPWRの見直し(再開・再交渉)に反対する書簡を送付した。CEFLEXは軟包装バリューチェーン企業150社以上が参加する国際的GO団体で,欧州における循環型軟包装の普及を促がすために業界連携,イノベーションや投資を進め,軟包装材の設計,回収,選別,リサイクルを改善することを目指している。CEFLEXは,プラスチック軟包装のバリューチェーンに関与している企業は,複数のEU加盟国で運用プロジェクトや実施活動を含め,既にPPWR遵守のために多くの時間と専門知識,アセットを投入しており,たとえ限定的な条文の見直しであっても,循環型経済への移行という重要な局面でこれを行うことは,事業者の投資,計画,実施に更なる不確実性をもたらすことになると警告している。

CEFLEXは,規制対象になる生産事業者がPPWRを遵守するための実際的,かつ法的な不確実性に困惑していることを認めつつも,PPWR本文の「いくつかの分野」における明確化を含め,「タイムリーで一貫性のある-‘timely and coherent’」二次法の制定を支持しており,そのための方法論やガイダンスの速やかな開示を求めている。

「CEFLEXはPPWRの見直し(再開・再交渉)を支持しません」とCEFLEX広報責任者のAlec Walker-Love(アレック・ウォーカー・ラブ)氏は述べ,次のように続けた。「とはいえ,PPWRの本格施行を控え,バリューチェーンの多くの事業者が文書作成,データ入力,申請手続きなどの事務的な多くの作業に追われ,法的な曖昧さに直面し,悩んでいることを認識しています。我々はPPWRの枠組みの維持を支持するとともに,二次法の制定とそのガイドラインを通じて,明確で一貫した法施行を求めます。EU委員会,加盟国の規制当局,多くのステークホルダーが,PPWRの理念と目的を達成できるよう,私たちは引き続き協力を惜しみません」。

これとは別に,チェコ共和国はPPWRの「包装の取り扱いを分かり易くするために必要な」免除規定の明確化をEU委員会に求める非公式の文書を提出している。この文書に他の加盟国も共同署名すれば,EU委員会に対しPPWRの適用期限の再検討や条文の見直しなど,政治的な圧力がかかる可能性もありうる。

PPWRは2026年8月の施行を控えており,両者が納得する完全な合意に達するのは困難で,的を絞った妥協案が提起されると思われる。ブランド側の書簡は,食品包装におけるPFASの禁止や,使い捨てプラスチックの定義が不明確であることを指摘しており,加盟国間で解釈がばらつくことを避けるため,施行の延期を要請したものだろう。

こうした動きはPPWRの施行に対するEU委員会の説明不足,取り組みへの不満や,施行プロセスが停滞するのではないかという業界の不安の反映でもある。大手食品・飲料ブランドの反発は循環型経済を否定するものではなく,PPWRに適合する方法論が明確になっていないことへの苛立ちが大きいからだと思う。

いずれにせよ,本稿が発行される8月にはこの論争は一旦収束し,8月12日の施行日に向けて何らかの妥協が図られるだろう。