米国食品医薬品局(FDA)の包装食品の正面の上部に栄養成分表示ボックスを移すという同局の改正案に対し,期限までに11,000件を超えるパブリックコメントが寄せられた。
FDA が今年1月にこの改正案を発表した際,栄養成分表示は「食品に含まれている栄養素で,過剰摂取すると慢性疾患に罹りやすくなるとされる飽和脂肪,ナトリウム,添加糖分の3栄養素の含有量を,消費者に分かりやすく視覚的に情報を提供する」ものとその目的を説明した。
なお,改正案では含有量は絶対値ではなく「低」,「中」,「高」の3段階で表示されることになっている。
この案に対し,食品業界の弁護士やデザイナーは,ブランドにとって大きな変化であり,包装の貴重なスペースを占有してしまう可能性もあると懸念を表明した。

また,Consumer Brands Association(CBA:消費者ブランド協会※1)は,15年前に食品業界が主導して導入した‘Facts up Front ’ 表示の自主表示があり,この普及を今後も続けたいとの意見書を提出した。同協会は,2025年5月に米国成人2,000人を対象に実施した消費者調査で‘Facts up Front ’ 表示が多数の消費者から支持されているという調査結果を発表している。この調査では,回答者の90%が‘Facts up Front ’ 表示をよく認知しており,購入の意思決定に活用しているとの結果を得たという。この調査は,‘Facts up Front ’ の普及で協力しているCBAとFood Industry Association(FMI:食品産業協会※2)の委託を受けた第三者の独立調査機関が実施したものだ。
- ※1: CBA-米国の食品,飲料,家庭用品,パーソナルケア製品などのメーカーの業界団体。2021年時点で,米国の73社の消費財企業の約2,000のブランドを代表している。
- ※2: FMI-米国の食品ストア業界を代表する協会。1977年にスーパーマーケット協会と全米食品チェーン協会が合併して設立された。食品小売業者,サプライヤー,関連サービス企業など,食品業界に関わる幅広い企業が会員として参加している。
「この調査は,消費者が包装に表示されている事実に基づいたデータに信頼をおいていることと,直接消費者からヒアリングできるという意味で非常に重要です。消費者は‘Facts up Front ’ の存在をよく知っており,ここに開示されている情報を購入動機の拠り所として活用していることがわかりました」とCBA 会長のMelissaHockstad(メリッサ・ホックスタッド)氏は会見で述べた。
一方,FMIはFDAへの公式コメントの中で,FDAの改正案に疑問を呈し,このまま最終決定せず食品業界と議論を交わすべきと提案する。 FMIは飽和脂肪,ナトリウム,添加糖分のみに焦点を当てるだけでは,消費者により健康的な食品の選択肢を提供することができないと指摘する。
またFDA に対し,包装の正面に表示する栄養成分に「カロリー量」を含めること,必要に応じて摂取を制限する必要がある栄養成分を追加できるようにすること,そして曖昧な「中」という表示を削除して絶対値を載せることを提案している。
更に,包装デザイン上の観点からも,栄養成分表示ボックスの位置を,包装の上部3分の1ではなく,下部3分の1に移すこと,また必要十分な情報を掲載できる最小限のスペースを確保することを求めている。

栄養表示の変更は,食品業界に大きな影響と負担を課すものであり,可能な限り消費者にとって有用で,波及力のあるものにしていく必要があると指摘する。
この規則が最終決定されれば,年間売上高が1千万ドル以上の食品メーカーは,発行日から3年後に包装の正面にこの栄養成分表示を追加することが義務付けられる。また売上がこの基準を下回る企業については,4年後までに対応が猶予される。
FDA のNutrition Center of Excellence の所長代理Robin McKinnon(ロビン・マッキノン)氏は,「米国人の栄養成分摂取に関わる慢性疾患は喫緊の課題です。この規則案の策定と公布は,FDA にとって長年にわたり最優先課題の一つでした」と米国民に蔓延する慢性疾患への対策の重要性を強調した。慢性疾患に関わる医療費は米国の年間医療費4兆5000億ドルの大きな割合を占めている。
「食品は健康を促進する手段であるべきで,慢性疾患の原因となるべきではありません」とFDA の副長官で食品部門担当のJim Jones(ジム・ジョーンズ)氏も会見で次のように述べた。「消費者に食品の適切で透明性のある栄養成分情報を提供するというFDA の使命に加え,包装の正面に栄養成分を表示することにより,食品業界がより健康的な食品へと改良を進められることを期待します」。
こうした建設的な議論は好ましい。米国の包装食品の栄養表示は,日本はじめ世界各国にも大きな影響を及ぼすので,深掘りした前向きな議論と法改正を期待したい。