“世界”を知る

「包装技術」より、包装に関連する世界動向などを扱った記事を抜粋してお届けいたします。

世界の動きを読むことで、日本や包装の進むべき道の模索にお役立ていただければと存じております。

第 14 回2025年
8月号

包装技術 隔月連載
パッケージを取り巻く世界の動向

欧州のCEFLEX が注目するプラスチック リサイクル技術

株式会社 パッケージング・ストラテジー・ジャパン

取締役社長 森 泰正

CEFLEX(Circular Economy for Flexible Packagingの略称で,欧州を拠点に活動する循環型軟包装を推進するコンソーシアム。日本企業も12社が参加)が,今,最も注目しているリサイクル技術がある。スケーラブルな技術で,商業化に最も近いという。

今年2月に発効したEU の包装・包装廃棄物規則(PPWR )は,2030年までに包装に占める再生材コンテンツを35%超,2040年には65%超にすることを義務化している。特に軟包装材料で主流を占めるPE やPP フィルムにとっては,使用可能な良質なPCRの安定調達のメドが立っていない現在,これは極めて高いハードルだ。そんな状況の中,米国のPureCycle Technologies社(以下,“PurCycle”)の溶媒精製プロセスが熱い視線を浴びている。

このリサイクルプロセスは混合廃プラスチック(PCW:Post Consumer Wastes)の中からPPだけを分離,回収して,特定の溶媒中でPP を溶解し,精製工程で樹脂中の顔料や臭気成分,不純物を抽出・除去して超高純度のPP に再生するものだ。PureCycle は2018年に発明者のP&G からライセンスを受け,8年の歳月をかけて超高純度r-PP の事業化に取り組んできた。これまでパイロットプラントでは成功を収めたものの,量産プラント(年産5万トン規模)での収率アップに苦しんでいた。そこで同社は,昨秋ペンシルベニア州のDenver に,回収した混合プラスチックベールの中からPP のみを選別する最新機器を揃えた前処理工場(ソーティング施設)を建設した。それをイリノイ州の精製工場に運び,樹脂の化学反応を起こすことなく廃PP を選択的に溶解,汚染物質を完全に濾過し,バージン同等の機械的強度を有する透明,無臭の超高純度PCR-PP に高い効率性で転換することに成功した。

 PureCycle独自の溶剤精製リサイクルプロセスで生産された再生PP で,廃PP の包装や製品からカラーや臭気,添加剤,その他の汚染物質を完全に除去したPP-PCR だ。“PureFive ”と名付けられた同社の再生PP樹脂は,自動車,繊維,包装業界の主要企業とオフテイク契約を結んでおり,ユーザーでの加工・実用試験でも成功を収めている。
 また米国FDAのLNO (異議なし通知)を取得済で,欧州でもEFSA(欧州食品安全機関)の承認取得に向け,近々広範な材料試験を実施し,認可申請する予定だ。

PureCycleのペンシルベニア州のスマートソーティングシステムの作業現場。AI装備のロボット選別機,渦電流選別機,マグネット選別機,トロンメル スクリーン(自動回転篩)などの最新設備を導入した。この工程で選別された純度90%超の廃PP は,オハイオ州Ironton の溶媒精製工場で超高純度のPP-PCR に転換され,包装・日用品・自動車部品等に加工され,最終市場に出荷される。

同社はこの溶媒精製PCR-PP を“PureFive ”と名付け(“five ”はPP の識別番号5 )の二次市場の開発に取り組んでいる。PPの最も大きなセグメントの一つで,成長性も高いフィルム用途(BOPP,CPP)での採用とこれを循環させる仕組みづくりだ。

PureCycle は二軸延伸フィルム製造ラインの世界最大手ドイツのBrückner の協力を得て,BOPP フィルムの量産ラインでの試作が順調に進展していることを最近発表した。

 Brückner でのBOPP の量産試作は,“PureFive ”をバージンPP にそれぞれ15%と50%配合した材料を使用して行われた。量産機の延伸工程で何の問題もなく製膜・延伸加工され,バージンPP のBOPP と同等の物性と性能を示した。今後,追加の確認テストを行い,年内には顧客となる複数のBOPP メーカーでの試作を予定しているという。

この他にも,ライセンス元であるP&G の乳幼児用オムツのパンパース向けのr-PP不織布の評価も順調に進捗しており,またオフテイク契約を結んでいるNestle やL’Oréal といった大手消費財企業での包装容器の評価も進んでいるという。PureCycle はPP の循環型包装に向けて,漸く大きな一歩を踏み出した。今後は長時間の商業運転にも対応できるパフォーマンスを実証し,コマーシャル規模のビジネスを実現するプロセス・エンジニアリングのさらなる改善を進めていく予定だ。

PureCycle は2030年までに年間処理能力を世界で25万トン規模に拡大する計画を持つ。現在,数多くの新しいリサイクル技術が開発,提案されているが,CEFLEXによれば,その中でもこの技術は生産拡大の余地が最も大きいと評価している。なお,CAPEX 投資額はケミカルリサイクルとメカニカルリサイクルの中間レベルと推定される。

米国に加え,欧州でもベルギーのアントワープで初の生産拠点の建設が進行中で,当初は年間5.9万トンの超高純度PP-PCR 生産能力を確立する予定だ。近い将来の大幅拡張を想定して,既に建設用地も確保済だという。また日本でもパートナー企業と連携してフィージビリティスタディを進めている。