
昨年末に欧州理事会で最終承認されたPPWRはEU だけでなく,世界の包装業界に大きな衝撃を与えている。欧州を代表する包装情報誌Packaging Europe(以下,PE誌)は,PPWRに詳しいMarius Tent 氏(ドイツの経営・ビジネスコンサルティング企業ViaPackaging(以下,VP社)の代表(以下,Tent 氏))に単独インタビューを行った。同氏は1年前にVP 社を創設,独立する前はMars やDanone で包装部門のグローバル・ダイレクターの職にあった包装のエキスパートだ。
PE誌EEU域外で生産され,域内に輸入された再生プラスチックがPPWRの基準を満たしていないのではないかという疑念が生じています。EU の品質基準に適合する再生プラスチックであることを確認する態勢はできているのでしょうか?EU域外で収集された廃棄物の再生材も,PCR としてカウントされるのですか?
Tent氏PPPWR -包装・包装廃棄物規則(EU)2025/40や,既存のEU 法令(食品接触用プラスチック材料に関する規則(EU)No 10/2011,食品接触用材料・物品に関する規則(EC)No 1935/2004,食品接触用再生プラスチック材料・物品に関する委員会規則(EU)2022/1616,およびREACH 規則(EC)No 1907/2006など)に適用される再生プラスチック,特にEU 域外で生産されEU に輸入された材料については厳格に管理されます。
中でも,食品に直接接触するケースが多い包装用途の場合は,PCRの生産地,その生産設備とプロセス,およびEU の法規制に適合していることが証明できる透明性の高いトレーサビリティ技術と第3者認証が必要になります。
EU域外から輸入された再生材を,EUが定める包装の再生材の含有量目標に含めるかどうかについては,現在議論が続いています。公平な競争条件を確保するために,すべての再生材はEU と同じ高い基準を満たし,環境目標,消費者の安全,公正な競争を確保しなければなりません。
PPWRの規制要件に,今から手を打って対応する企業は,競争優位の地位を確保できるでしょう。サーキュラーエコノミーへの転換をリードしてEU市場で主導権を握ることも可能です。
PE誌一定のリサイクル率を達成した包装についてリユース義務が免除されることになりましたが,これはリユース・リフィル可能な包装の普及につながらないという意見があります。PPWRはリユースとリサイクルの適切なバランスをとっていると言えるのでしょうか?
Tent氏良い質問ですね。PPWRは廃棄物ヒエラルキーの優先順位(Reduction =廃棄物を発生させない,Reuse ,Recycle )に従って,サーキュラーエコノミーの広範な目標に取り組くむことになります。PPWR はReuse とRecycle のバランスを取ることを目指していますが,一定のリサイクル率が達成された場合に,リユース目標の免除規定があるので業界では混乱を招いています。リサイクルは材料の回収を確実に行うことで,化石由来バージン材料の使用抑制に繋がります。一方,リユースは廃棄物の発生抑制に直接繋がり,長期的に環境負荷の軽減をもたらします。
しかし,規模感のあるリユースシステムを動かすには,パッケージ開発,インフラ整備から消費者の行動変容に至るまで,サプライチェーン全体が連動する仕組みづくりが必要です。リユースが当初のプラン通り進んでいないのは,この課題解決が困難だからです。
PPWR の条文がReuse とRecycle の適切なバランスを指し示しているかどうかについては,活発な議論があります。リユース可能なパッケージの革新と投資を促すには,リユースに対してより強力なインセンティブが必要なのかもしれません。
PE誌一般的に言って,例外や免除規定についてどうお考えですか?こうした措置はPPWRに含まれるべきものなのでしょうか?
Tent氏特例や免除規定は,食品の安全性確保や,技術的に実行できない事例に直面した時,現実的で柔軟性のある対案を示す有効な方策だというのが私の見解です。
しかし,こうした手法を過度に使用したり,一貫性のない方法で運用したりすると,PPWR本来の目的が損なわれる可能性があります。特例や免除規定を使って,PPWRが目指す長期的に持続可能な目標を達成するためには,これらの手法は控えめに運用し,本来の目標との整合性を定期的にチェックする必要があります。
PE誌再生プラスチックへの優先アクセス権はどの分野に与えられるべきでしょうか? もしそうなら,それはどの事業者でしょうか?
Tent氏私は,再生プラスチックへの優先アクセス権は,環境,健康,安全性が求められる分野に与えられるべきという意見です。例としては,次のようなものが挙げられます。
・ 厳格な安全規制への適合性が求められる食品・飲料用途
・ 厳しい基準により高品質で特殊な材料が必要となる医薬品・医療用途
・ 厳格な安全性と品質基準の遵守が求められる化粧品用途
このような用途に優先アクセス権を与えることで,安全性や機能性を損なうことなく,再生材コンテンツ目標を達成するのに役立ちます。
PE誌PPWR は,使い捨てプラスチックをスケープゴートにし,紙や段ボールを優遇しているとして,「反プラスチック規制」であると批判されることがあります。これについてはどう思われますか?
Tent氏特定の材料を優遇するものと捉える人がいるかもしれませんが,PPWRは使い捨てプラスチックを含む,すべての包装材料が環境への負荷を減らすように制度設計されています。
私はバランスの取れた包装材料には,以下の項目が含まれるべきと考えています。
1 .利便性と持続可能性の両立:包装技術は,持続可能な慣行を支援し,同時に実用性について消費者の要望を満たしていること。
2 .ライフサイクル評価:すべての包装材料を公平に評価して,ライフサイクル全体で環境負荷を抑制すること。
3 .認識ではなく現実を直視すること:事実に基づいた透明性のあるデータで裏付けされ,消費者の信頼を築いて,科学的な選択を行うこと。
PPWR は包装廃棄物削減の重要なフレームワークを提供すると私は固く信じていますが,真のイノベーションと変革を実現するには,包装業界の人たちが,社内外の他の多くの関係者と協力して,法的枠組みを超えて廃棄物削減の取組みを推進することが大事です。
PE誌PPWR の条文の文言が不明確,あるいは具体的でなく,それが国ごとの解釈につながり,EUが目指す単一市場(Single Market)の分裂につながるという意見があります。
Tent氏PPWR はEU 全体で持続可能性を推進し,循環型経済を前進させることを念頭において策定されました。しかしPPWRの意義を最大限に発揮するには,曖昧な表現により誤解を生じさせないことや,国によって解釈が異ならないように対処することが非常に重要になります。PPWRの条文の断片的な解釈は,法規制全体の意義を損ない,加盟国間に不一致と不利益を生じ,グローバルに事業を展開する企業に大きな負担を強いることになります。
これらのリスクを回避するには,以下の追加的な措置が求められます。
1 .EU 加盟国各国の統一的な理解を徹底するための明確な定義と技術ガイダンスの策定
2 .加盟各国の対策を調和させ,実際に直面する課題については,欧州委員会による二次法の制定とその周知徹底
3 .明確化が必要な分野についてはステークホルダーの協力を得て意見を集約し,実用的で効果的な制度設計すること
PE誌PPWR における拡大生産者責任(EPR )の位置づけは?
Tent氏拡大生産者責任制度は,PPWRの枠組みに組み込まれていますが,その範囲は広く,かつPPWR の成功を左右する重要な要件です。安定した財源を基盤としたEPR 制度がなければ,PPWRの目標は達成できません。効率的な収集,精度の高い選別,堅牢な再生システムを構築して政策を具体化するためには更なるインフラ投資を行う財源が欠かせません。企業はEPRを経済的負担としてではなく,循環的で持続可能な未来への戦略投資として考える必要があります。
PE誌食品ロス削減や安全性の高い食品の確保など,環境だけではない持続可能性の取り組みをPPWR は包含していますか?
Tent氏PPWRを遵守することにより,包装の革新性と効率性を高め,食品を保護し,シェルフライフを延ばし,輸送や保存期間中の食品の腐敗を減らして,間接的に食品ロスの削減に貢献します。また懸念化学物質に関しても規制を強化し,包装に使用されるPCRに厳格な安全基準を設けて食品の安全性を確保する制度設計をしています。
しかし,食品ロスを大幅に削減するには,法規制を超える大きな枠組みが必要です。インテリジェント・アクティブ包装やデジタル技術の採用など,革新的な包装技術への投資を増やし,食品の鮮度監視を強化して,食品安全性を確保して,サプライチェーン全体の課題に取り組む必要があります。
PPWR は強力な法的枠組みを提供しますが,食品ロス対策に包括的に取り組むには,業界を挙げた持続的なイノベーションが欠かせません。
PE誌PPWR の要件を満たすことは,欧州で事業を展開する企業にとって大きな負担です。企業はPPWRに適合するために何をすればいいのでしょうか?
Tent氏まずPPWR を徹底して勉強し,理解してください。PPWRは単なる規則集ではありません。持続可能な未来を実現するために包装をどのように進化させるべきかを示す枠組みです。PPWRだけでなく,それに続く二次法についても最新情報を把握し,理解することが大事です。知ることは企業にとって強みであり,それを習得した企業が成功を約束されます。
次に,自社の包装を徹底的に見直してください。すべての包装,そのフォーマットと素材,プロセスを総点検してください。そして自らに問いかけてください。我々の包装はPPWRに適合しているか?PPWRが求める要件への準備はできているかと。
これは単なる運用上の問題ではなく,組織上の課題です。生産現場から経営陣まで,企業内の全構成員がPPWRの重要性とそれがもたらす機会を理解する必要があります。
3つ目は,コンプライアンスを超えて考えることです。PPWRは単にクリアすべきハードルではありません。大きなイノベーションのチャンスです。差別化の機会です。PPWRを基盤に総合的で持続可能な包装イノベーション戦略を実践する企業は,市場で主導権を取れます。
コラボレーションも忘れてはいけません。どんな大きな企業も,単独ではこれらの課題を解決することはできません。リサイクルインフラ,リユースシステム,新素材の開発など,私たちが必要とする基盤技術の確立には,バリューチェーン全体にわたるパートナーシップが必要になります。この長い旅を皆で共有し,それに積極的に関わる人々に成功は約束されます。
最後に人材についてです。企業が自社の包装部門で専門知識を持つ人材を育成することは長期的な成功の基盤になります。PPWRは包装業界のリーダーを生み出す機運を醸成しています。