TOKYO PACK 2024(2024東京国際包装展)では,海外からの来場登録者数が6千人を超えた。これまで4千人の壁をあと一息のところで超えることができなかったが,今回は飛躍的に増加した。主催者の日本包装技術協会による海外発信や国際会議への参加などの不断の活動に加え,日本の包装技術の進化が海外で評価されていることも見逃せない。その名の通り,国際包装展にふさわしい活気があった。
国際色豊かなウェルカム・レセプション:10/23
今年のTOKYO PACKでは,日本包装技術協会が主催する伝統ある木下賞の授賞式が初日のウェルカム・レセプションで開催された。これまでにないユニークな企画であり,海外からの来場者も加えた賑やかな交流を随所で見ることができた。木下賞も例年にも増して環境配慮にフォーカスした包装技術の受賞が増えた。世界的な資源循環へのうねりが,日本の包装設計者のモチベーションを高めているようだ。注目すべき動きは,バリューチェーン企業間の連携が進んでいることだ。
第48回木下賞で「研究開発部門」賞を獲得したのは,花王の「おかえりつめかえパック」だが,ライバル企業のライオンと協力して使用済みパウチを回収,そのパウチを再資源化し原料として供給する三井化学とプライムポリマー(東ソーと異物の凝集防止の相溶化剤を共同開発),その材料を使用して再生パウチを生産・供給するフジシールの企業間連携が,このプロジェクトの進展に大きな役割を果たしている。リサイクルが困難といわれる軟包装の水平リサイクル技術の具現化に携わっている企業が一緒に授賞式に参列したことは意義深いことだ。モノマテリアルの一択で使用済みパウチのリサイクルを考えている海外の包装関係者にも大きな刺激を与えたと思う。
同じく「研究開発部門」賞を受賞した,日本山村硝子の米のもみ殻(もみ殻の成分の20%はガラスの原料であるシリカが含有している)を再利用するバイオマス日本酒瓶の提案も,高齢化と人手不足に悩む日本の米作農家を支援し,農業廃棄物を回収して有効利用する意義のある取り組みだ。この技術は海外でも,麦の廃棄されたもみ殻を利用するバイオマス ビール瓶や,サトウキビのバガスを再利用したスピリッツ瓶など,バイオマスをガラス瓶の再生原料に転換して資源循環の国際協力に展開する可能性を孕んでいる。
また大日本印刷と福岡県及び福岡県薬剤師会の協業による,使用済み医薬品ボトルの回収とリサイクルの取り組みも,良質な再生材料としての可能性がありながら焼却処理されている現状を,資源循環型に転換する試みとして注目される。
この分野は調剤薬局やドラッグストアの協力を得ることで,不純物の少ない良質な再生材料を確保できるので,まさに見逃された都市資源を活用するのにふさわしいプロジェクトだ。
日本でも一定のプラスチックを使用する製造業に対し,再生材の使用量目標設定と使用実績が義務化を求める法規制が来年の通常国会に上程され,審議される予定で,こうした地道な取り組みが一躍脚光を浴びることになるだろう。
初めてアジアで開催されたダウ 包装イノベーションの授賞式:10/24
註:2021年はコロナ禍のため2022年に延期された
最優秀賞のダイヤモンド賞は,日本のパナソニックエナジーとトッパンインフォメディアが共同出品した乾電池の紙パック(紙台紙とプラスチックブリスターシートの複合包装の代替技術)が獲得した。
この包装コンテストは36年前に米国デュポン社が創設し,その後米国ダウ ケミカル社に継承され,現在に至っており,包装業界では最も長い歴史がある。今年から隔年開催となり,世界各地から340点が応募,28点のファイナリストが選出された。TOKYO PACKでは,ダイヤモンド賞を始め,各カテゴリーの受賞作の発表と授賞式が華やかにとり行われた。授賞式の後,受賞者を始め,主催者のダウの関係者,審査員,授賞式に参列した来場者らとともに,隣接するホテルに会場を移し,ランチをともにしながら活発なネットワーキングが行われた。受賞作は授賞式の会場に隣接した展示コーナーでも,TOKYO PACKの開催期間中展示された。
35年の長い歴史のあるこの国際的な包装コンテストで,日本の包装技術が最優秀賞のダイヤモンド賞を獲得したのはこれで3度目だ。ただ日本の包装技術のレベルの高さを考えれば,もっと多くの獲得実績があっていい。今後は,日本の包装技術の海外発信の頻度を増やし,海外の包装コンテストやコンファレンスに参加し,ネットワーキングを通して存在感を高め,言葉の壁を乗り超え,海外での展開を積極的に目指してほしい。
ダウ賞に限らず近年は,包装の環境対応性と生活者のユーザビリティに配慮した包装が高い評価を得る基準になっている。当然ながら,そうした機能を支える高い技術力も欠かせない。日本はこの点に関して,世界のトップランナーの役割を果たせる力がある。必要なのは国際市場で訴えるプレゼンテーション力と,生活者の共感を呼び,行動変容を起こす不断の努力の積み重ねだ。その意味で今回のダウ賞で筆者が深く印象に残った事例を一件紹介する。
ケニアの包装コンバーターPackaging Industries Limited(PIL)は,2020年以降,4回連続でダウ賞の入賞を果たした(2021年はコロナ禍で延期)。これは,伝統あるこの包装コンテスト史上初の快挙であり,欧米やアジアの有力コンバーターやNestlé,Unilever,P&Gなどの常連入賞組を押しのけて獲得したものだ。今回,主催者から特別表彰されている。4つの賞は,いずれも収穫された農産物のシェルフライフを延長する軟包装フォーマット(ミニサイロ,重袋,ピローパウチ,真空パック)で,包装が農業国ケニアで大量に発生する農業廃棄物の削減に貢献し,同国の農業生産の健全な発展を支えている。