環境関連の情報公開は,1990年代の「環境報告書」,2000年代の「CSR報告書」,2010年代には「環境・CSR・統合報告書」と進み,2025年には有価証券報告書にも環境情報の開示が義務化される予定だ。その内容も,GHG排出による気候変動や,廃棄物による環境負荷が深刻化する中,「過去情報」だけでなく,エネルギー消費の抑制や循環型社会への移行をテーマに,中長期にコミットする「将来情報」の開示も求められている。これは企業の事業活動が,地球の大気,海域,陸域の温暖化や汚染の起因になっているという主張が世界的に認識されるようになり,従来の「進歩と発展」から,「持続可能な成長」へのパラダイム転換が起き,人類共通の重要課題になったからといえる。
投資家や調査会社もこれに敏感に反応している。投資対象企業の持続可能な発展を重視して,バリューチェーンを通じてステークホルダー,社会,経済及び自然環境と密接に繋がり,肯定的な相互作用を生み出すことが企業価値の向上に欠かせないと考え,企業に取り組み強化と情報開示を求めるようになってきた。
2023年6月に改訂版が提案され,同年10月に欧州議会と欧州理事会によって採択されたESRS(欧州サステナビリティ報告基準)では,以下の環境要因について,企業が開示すべき情報を規定している。
・GHG排出量のScope 1,Scope 2,Scope 3に関する気候変動緩和への取り組み
・気候変動への適応力と回復力
・水と海洋資源の保全
・資源の有効活用と循環経済への移行
・汚染防止策の実践
・生物多様性と生態系の保全
企業は海外事業の展開にあたって,こうした世界の潮流の変化を見極め,取引先の方針や戦略を理解し,自社のビジネスモデルの点検と変革を進めなければならない。
包装製品を世界市場に展開している企業は,GHG排出量削減,製品のリサイクル性向上や再生材料の使用増などの環境負荷緩和の取り組みについて,国際的に認知され,信頼性の高い組織を通じて開示するようになった。今や持続可能性への取り組みは包装業界にとって,消費者,ブランド,投資家,規制当局などのステークホルダーの信頼を得るために欠かせないものとなっている。
本稿に掲載したデータは,欧米の大手包装各社の年次サステナビリティ報告書をベースにして米国包装メディアのPackaging Dive社がGHG排出量の削減,サスティナブルな素材への移行に焦点を当てて,その進捗状況をまとめたものだ。数値や時間軸,用語は,各企業が独自に発表したものであり,Apple-to-Appleの比較はできないが,前年からの進捗を追跡するには役立つ資料だ(全文は右の短縮URL https://00m.in/ODDLC からアクセスできます。本稿ではページ数の制限もあり一部企業のみ掲載しています)。
日本でも前述したように,2025年から有価証券報告書に,従来の財務情報に加え,持続可能性に関わる現状や将来計画の報告が義務化される見通しだ。以下に紹介する各企業の資料は参考になるかもしれない。
Amcor社:軟包装
最初は世界中に生産拠点を有してグローバルな事業展開をする軟包装メーカーAmcorの2022年と2023年の概要を見てみよう。
GHG 排出量(CO2換算) | 2022年(千 ton) | 2023年(千 ton) |
---|---|---|
Scope 1: | 520 | 463 |
Scope 2: | 1,363 | 1,340 |
Scope 3: | 10,276 | 8,777 |
![図1 Amcor社の製品群(出所:Amcor 2022年6月プレスリリース)](../img/package/08/img01.jpg)
GHG排出量削減目標
2022年:2050年までに自社事業のGHG排出量を実質ゼロにする。
科学的に信頼性の高い測定・分析技術を開発する。
:2030年までにGHG排出を60%削減する(2008年対比)。
-2022年の削減実績は2008年対比57%削減。
2023年:ネットゼロ基準の認定目標をSBTiに提出。
2024年:SBTiの認定取得予定。
註:SBTi(Science Based Targets イニシアチブ)は,CDP(Carbon Disclosure Project),世界資源研究所(WRI),国連グローバル・コンパクト,WWFの共同イニシアティブ。2024年4月現在,SBTiのネットゼロ基準の認定を取得した日本企業は34社(世界全体では802社)。
材料目標
2022年:2025年までに包装製品の100%をリサイクル・リユース可能,またはコンポスト可能にする。
-2022年実績:
・硬質包装(売上の23%,PETボトルが主)の96%がリサイクルまたはリユース可能となった。
・軟包装(売上の77%)の83%をリサイクル可能な設計に変更した。
2030年までに包装製品の再生材含有率を最低で30%にする。
-2022年実績:
購入量(再生樹脂・再生アルミ)は15.5万ton(全購入量の4.8%)
2023年:包装製品の74%がリサイクル・リユース可能な設計になった。
22030年までに包装製品の再生材含有率を最低で30%にする。
-2023年実績:
再生樹脂・再生アルミの購入量は,20万ton(全購入量の7%,プラスチック全体の8.5%)
環境情報提供先
・GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)
・SASB(サステナビリティ会計基準委員会)
・TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)
Amcorの環境報告書
・2022年: https://00m.in/BDoiJ GHG排出量は41頁に掲載
・2023年: https://00m.in/WbcAa 同上 62頁に掲載
Ball社:金属容器
次は,金属容器の世界最大手Ball社だ。
GHG 排出量(CO2換算) | 2022年(千 ton) | 2023年(千 ton) |
---|---|---|
Scope 1: | 449 | 398 |
Scope 2: | 529 | 266 |
Scope 3: | 12,150 | 8,660 |
![図2 BallとBud Lightが2020年にマイアミのHard Rock Stadiumで開催されたSuper Bowl LIVでBallの「無限に」リサイクルできるアルミカップを使用ゲーム終了後は回収再利用された](../img/package/08/img02.jpg)
GHG排出量削減目標
2022年:2017年-2030年にScope 1/Scope 2のGHG絶対排出量を55%削減。
-2022年実績:2017年対比27%減。
2017年-2030年にScope 3のGHG絶対排出量を55%削減。
-2022年実績:2017年対比36%増。
2023年:2017年-2030年にScope 1/Scope 2のGHG絶対排出量を55%削減。
-2023年実績:2017年対比42%減。
2017年-2030年にScope 3のGHGの絶対排出量を55%削減。
-2023年実績:2017年対比 4%増。
材料目標
2022年:2030年までに缶,カップ,ボトルの再生アルミの含有量を85%にする。
-2022年実績:再生アルミ含有量90%。
2030年までに再生アルミ含有量75%の新軽量エアゾール缶を上市する。
-2022年の再生アルミ比率は59%。
2023年:2030年までに缶,カップ,ボトルの再生アルの含有量を85%にする。
-2023年実績:再生アルミ比率は67%。
-2023年の新軽量エアゾール缶の再生アルミ比率は66%に。
環境情報提供先
・CDP(カーボン・ディスクロージャーProject)
・GRI
Ballの環境報告書
・2022年: https://00m.in/jtmUZ 環境情報は7頁に掲載。に掲載
・2023年:ネットからの資料入手不可。
Smurfit Kappa社:紙パルプ
最後は紙パルプ業界を代表する英国のSmurfit Kappaだ。
GHG 排出量(CO2換算) | 2022年(千 ton) | 2023年(千 ton) |
---|---|---|
Scope 1: | - | 2,415 |
Scope 2: | - | 467 |
Scope 3: | - | 未公表 |
![図3 Smurfit KappaはFinancial Time誌と協力して,持続可能性に関する最も差し迫った課題の調査を実施した。表題は「サステナビリティがビジネス環境を再形成する」](../img/package/08/img04.jpg)
GHG排出量削減目標
2021年にSBTiのゼロ排出基準の認定取得。
・2050年までにGHG排出量を実質ゼロに。
・2019年-2030年にScope 1とScope 2のGHG排出を37.7%削減する。
・2030年までに製紙・板紙工場で生産する1トン当たりのScope 1とScope 2のGHG排出量を2005年対比で55%削減する。
-2022年実績:2005年比43.9%削減。
材料目標
・2025年までに包装材料の95%のCOC認証取得(2023年に95.5%の認証取得済)。
環境情報提供先
・GRI
・SASB
・UNGC(国連グローバル・コンパクト)
Smurfit Kappaの環境報告書
・2022年: https://00m.in/UCzTz