“世界”を知る

「包装技術」より、包装に関連する世界動向などを扱った記事を抜粋してお届けいたします。

世界の動きを読むことで、日本や包装の進むべき道の模索にお役立ていただければと存じております。

第 6 回2024年
2月号

包装技術 隔月連載
パッケージを取り巻く世界の動向

2024年の世界のパッケージングの展望

株式会社 パッケージング・ストラテジー・ジャパン

取締役社長 森 泰正

UNEPの国際プラスチック条約の行方

2022年3月、海洋環境を含むプラスチック汚染に関する国際的な法的拘束力のある文書を作成するための国連決議が採択され、政府間交渉委員会(INC)が設置、既に3回開催された。

INC-3は昨年(2023年)11月にUNEP(国連環境計画)の本部があるケニアのナイロビで開催され、設定目標の達成に向けた討議がなされたが、締結するまでになすべき作業が多く残り、国際条約草案の具体化は手つかずの状態だ。

UNEPのMathur-Filipp事務局長は、さまざまな追加提案の絞り込みと最終決定は、2024年4月のカナダのオタワで開催されるINC-4、11月の韓国の釜山のINC-5でなされることに期待をかけており、2025年に参加国の外務大臣が出席する全体会議で公式文書の採択と調印が行われる予定だ。

「プラスチック廃棄物汚染は、全人類に深刻な影響をもたらしています。我々は強力で野心的で公正なプラスチック条約を必要としていますが、それは最初の一歩に過ぎず、そこから各国の合意を得て、その方策を迅速かつ効果的に実行に移さなければなりません。すべての参加国とステークホルダーにプラスチック廃棄物削減計画を各国でどのように実装していくか早く検討を開始してほしいと願います」とMathur-Filipp氏は述べた。

AIの進化

2023年には、パッケージング分野でも破壊的な技術を備えた人工知能(AI)が出現した。AIはパッケージングの様々な現場で運用できる。AIが使用できる分野は、パッケージング技術の進歩、生産と物流の統合・最適化、包装廃棄物の高精度の選別、革新的なマーケティング手法、循環型パッケージの推進(GHGやPCRのリアルタイムの測定など)、ロボット工学の進化、サプライチェーンの強靭化、検査システムの改善など枚挙にいとまがない。

環境分野でもAIは貢献してくれるだろう。環境負荷の削減や持続可能な未来の創造など、人類が挑んでいる解決困難な分野で不可欠な存在となるだろう。

パッケージングセクターで、サステナビリティー・トランスフォーメーション(SX)の需要は世界的に高まっており、データ学習によるリサイクルの透明性の確保など、AIは人間の能力を超えて事業モデルの改革に大きな力になるだろう。

リユースパッケージシステムの実装

国際プラスチック条約、EUのPPWR改訂、Ellen MacArtuer財団のプラスチック協定など、包装廃棄物削減に関する取り組みの中心にあるのが、パッケージのリユースとリフィルの普及だ。2024年にはパッケージング業界がリユースシステムの実装に向けて前進することを期待したい。

近年この分野では、スタートアップ企業が躍進している。EcoCubly (独自のクロージャー機構により内容物の容積に柔軟に適合して空きスペースを削減する、リユース可能な段ボールケース)や、Fyllar(スマートフィルRFIDタグを装着した「クリーン」なリフィル・ソリューション)などは有望な技術だ。

また、大手ブランドも独自に実証試験を進めている。たとえば、Nestléは12ヵ国でコーヒー飲料のリユース・リフィルシステムの試験運用を始めた。Coca-Cola Company は2030年までに同社のすべての飲料製品の25%以上をリフィル可能なリユースのガラス瓶やPETボトルで販売することを公表している。

PepsiCoも2030年までに、リユース・リフィル可能なガラス瓶やPETボトルの比率を最低20%にする目標を発表した。これら大手飲料メーカーの成果の一部を我々は今年知ることができるだろう。

また、革新的なリユースシステムを提供する企業も現れた。ロンドンを拠点とするスタートアップ Againは、Budweiser Brewing Group, Diageo, Biffa, Green Kingなどの大企業から資金供与され、英国で最新の自動化技術、ロボット工学、ソフトウェア技術を駆使した同社独自の自動マイクロ洗浄・殺菌ユニットCleanCellの実証試験を開始した。このユニットはコンパクトながら月間50万本の洗浄・殺菌能力がある。ブランドの空きビンや空ボトルの輸送に代わって、大都市圏で分散型のリユースシステムを構築できるかもしれない。

このように、リユースパッケージは廃棄物削減に有効な技術として注目されているが、課題も多い。リフィル・リユースシステムは萌芽期で、大規模に成功を収めているプロジェクトは、まだ見られない。TerraCycleLoopは、世界各地でさまざまな試みを実践しているが、規模感のある事業モデルの確立に苦労している。

欠けているのは政治家、生産者、サプライチェーン企業の協力であり、消費者の行動変容を促す努力も必要だ。政治の支援と法整備、新たなリユースモデルの実装や効率的な配送モデルを導入して牽引しなければ、リユース・リフィルスキームは一部の大企業が利用するだけに留まるリスクもある。

紙・板紙包装

昨年紙・板紙包装では、ウクライナのReleafの落ち葉由来の袋やPabocoのプロトタイプの紙ボトルが話題となった。一方で、紙にはリサイクル可能なバリアコーティング技術の必要性も明らかになった。この点で、昨年8月に RyPaxCelluComp が共同発表した植物由来コーティング剤を使用した100%繊維ベースのボトルは、紙ボトルの内壁に生分解性のコーティングを施した「世界初の100%再生可能な紙ボトル」であり、食品、飲料、美容、小売業界が強い関心を示している。バリアコーティング剤の素材は、根菜類の廃棄物や竹、バガスなどのパルプ繊維を使用している。

2024年は紙・板紙包装では、より環境負荷の低いライフサイクルを実現するための研究開発が進み、特にEnd of Life時点のリサイクル性改善などの応用がさらに進むことを期待したい。

PPWR(包装・包装廃棄物法令)の改訂

PPWR(以前のPPWD)は飛躍的に進展したのか、あるいは、一歩前進二歩後退したのか、業界では意見が分かれている。2022年11月にPPWR草案が公表されて以降、肯定的見解や否定的意見が飛び交い、1年にわたり物議を醸した。

EU議会の環境委員会(ENVI)はEU委員会の原案を300ヵ所以上修正し、双方が妥結可能な改訂案を採択、EU議会本会議に上程し、最終的には賛成426票、反対125票、棄権74票で可決された。2024年1月から、EU理事会、EU議会の環境委員会、EU委員会の3者間協議が行われるが、法案を承認する立場のEU理事会は、‘General Approach’(2018年を基準年に、全ての包装廃棄物を2030年までに5%削減、2035年までに10%削減、2040年までに15%削減する目標の達成)を求めている。

これは比重の軽いプラスチックを削減して、比重の他の重い代替素材に切り替えることがゴールではなく、EUの全体目標である全ての廃棄物の削減を実現するEUの姿勢を再確認したものと考える。現実にEUの固形廃棄物の排出は、厳しい規制にもかかわらず減るどころか、図の通り2014年を底に増加傾向にある(出所:Eurostat)。

PPWRに対する業界の批判は年明け後も続いている。今後の3者間協議の行方を注目したい。

図 EUの年間1人当たりの固形廃棄物排出量推移:2010~2021年(出所:Eurostat)
図 EUの年間1人当たりの固形廃棄物排出量推移:2010~2021年(出所:Eurostat)