“世界”を知る

「包装技術」より、包装に関連する世界動向などを扱った記事を抜粋してお届けいたします。

世界の動きを読むことで、日本や包装の進むべき道の模索にお役立ていただければと存じております。

第3回2023年
8月号

包装技術 隔月連載
パッケージを取り巻く世界の動向

株式会社 パッケージング・ストラテジー・ジャパン

取締役社長 森 泰正

はじめに

5月4日から7日間にわたりドイツ,デュッセルドルフで6年ぶりに開催されたinterpack 2023の3日目に,世界包装機構(WPO)主催のWorldStar Packaging Awards 2023の表彰式典が厳粛,かつ和やかに行われた。

周知の通りWorldStar賞は例年世界数十ヵ国から応募があり,その数はあらゆる包装コンペティションの中で世界最多の応募数を誇る。50年以上の歴史を誇る世界で最も権威のあるパッケージング賞でもある。5月6日の表彰式には世界各国から多くの受賞者が参列した。ファイナリストの中から最も優れたパッケージング技術に与えられる「President Award」の金,銀,銅の3点と,長年世界のパッケージングの発展に貢献してきた包装人を対象に選出される「Lifetime Achievement Award in Packaging(生涯包装功労賞)」が当日発表され,それぞれに記念のメダルが授与された。

世界で存在感を示した日本のパッケージング技術

世界のパッケージング業界が注目したこの式典で,嬉しいことに今年は日本勢が大きな存在感を発揮した。2023年のWorldStar賞では,食品,飲料,ヘルス・パーソナルケアなど18部門と特別賞のサステナビリティ,セーブフードなど4部門で,計228点(重複受賞あり)が入賞したが,日本は参加国中最多の26点が受賞した。最高の栄誉であるPresident賞はこの日発表され,日本コカ・コーラ社のラベルレスPETボトルは銅賞を獲得した。

そして生涯包装功労賞は,日本人としては初めて有田技術士事務所所長の有田俊雄氏に授与された。今年度は世界で唯一人の名誉ある受賞であった。同氏はパッケージング・ストラテジー・ジャパンの創立者でもある。日本の包装専門家として,グローバルな視点で精力的に活動を続けられ,90歳を超えた今でも日本と海外を結ぶ橋渡し役として活躍されていることが世界で認められた。本当に喜ばしく,誇りうることだ。

有田氏は2005年には,米国包装殿堂(Packaging & Processing Hall of Fame)入りも果たされている。米国包装殿堂は1970年にスタートしたが,日本人はまだ3人しか選出されていない。有田氏に続き,世界のパッケージング業界で活躍する日本の包装人が輩出することを願う。

受賞が発表されてから,有田氏には海外のメディアからのインタビューが殺到している。本誌の読者の皆さんには,IPPO(国際包装プレス協会)の会長Steven Pacitti氏と有田氏の印象的なインタビュー記事をご紹介する。

生涯包装功労賞を受賞された有田俊雄氏(右)と世界包装機構のPresident, Pierre Pienaar教授(左)
生涯包装功労賞を受賞された有田俊雄氏(右)と世界包装機構のPresident, Pierre Pienaar教授(左)

IPPO生涯包装功労賞を受賞されたことは,あなたにとって,どのような意味がありますか?

有田氏これまで私がやってきたことを一言でいえば,日本と海外との間でパッケージングのゲートウェイ機能を担ってきたことです。日本国内のみならず,海外でも多くの場面で人的交流を通じ,お互いの技術紹介や企業間の連携を支援してきました。このことが世界に認められたのは大変嬉しいことで,これからはそのネットワークを次の若い世代に引き継いでいくのが私の役割であると思いを新たにしています。

IPPOイノベーションの視点から,interpack 2023で最も興味深かったものは何ですか?

有田氏化石由来バージンプラスチックを削減するための,リサイクルが容易な包装材料への転換です。バリア性を付与したモノマテリアル包材や紙基材への転換は,interpack 2017では,その兆候だけでしたが,今回は着実にそれらが実現に向かっていると感じました。次回のinterpack 2026までには,その多くがスーパーやドラッグストアの棚に並ぶと確信しました。

IPPOプラスチック包装業界の人たちへのアドバイスはありますか?今,何に焦点を当てるべきでしょうか?

有田氏プラスチック包装材料の2030年リサイクル目標達成のために,プラスチック業界には,まだまだ多くの課題があります。プラスチックを使用するバリューチェーンのあらゆる場面で,プラスチック業界には,ひとつひとつのイノベーションの積み重ねが必要です。使用済みのパッケージをしっかり回収してリサイクルするだけでは,充分ではありません。例えば,食品包装の場合は,再生材のフードグレードの認証システムや,食品ロス発生抑制の課題があります。また,消費者の理解と協力を得るには,容器・包装リサイクルへのアクセスを容易にするOn-pack labelingも欠かせません。

プラスチック全体としては,再生材料を循環して使用する仕組みづくりが重要です。

IPPO日本のプラスチック包装業界で今何が起こっているのか,そして世界の他の国々は日本から何を学ぶことができるでしょうか?

有田氏1990年代初め,都市ゴミ埋め立て地不足の危機に際して減容化の方法として,日本は焼却を選びました。そのため,プラスチックの大部分が焼却(エネルギー回収を含む)に回り,リサイクル率が低い水準に留まっています(2021年現在:25%)。2023年にプラスチック新法が施行され,容器包装以外のプラスチック製品も合わせて自治体が回収するようになりましたが,実効性を挙げるにはまだ遠い道のりがあり,改善が必要です。

しかし,日本の包装業界には,詰め替えパウチによるプラスチック削減や,独自のバリア材料(EVOH,透明バリアフィルム)のように,長年にわたって積み上げてきた技術があります。

また,飲料用PETボトルの高い回収率を可能にした社会システムがあります(2021年現在:86%)。軟包装の充填包装機械や製袋機などの包装機械は,今回のinterpackでも多くの日本の機械メーカーが出展しています。技術力も,競争力にも優れています。

IPPOあなたが今リスペクトし,期待している企業,イノベーション,テクノロジーを挙げてください。

有田氏具体的な企業名を挙げることは難しいです。それより,循環型社会の実現のために,競合関係にある企業同士が,軟包装のCEFLEXや,紙パッケージの4evergreenのような組織を作り,協働していることに高い尊敬の気持ちがあります。日本が,ぜひ見習いたい点です。また,日本の包装業界がWPOの活動にもっと深く参加することが望ましいというのが私の考えです。

なお,去る7月6日には,日本包装技術協会主催の「生涯包装功労賞」受賞記念として,interpack 2023視察報告を交えたグローバルの包装動向と,「包装界の未来に対する提言と今後への期待」と題して,有田氏が示唆に富む記念講演をされ,終了後は多くの参加者との交流会がにぎやかに行われた。