“世界”を知る

「包装技術」より、包装に関連する世界動向などを扱った記事を抜粋してお届けいたします。

世界の動きを読むことで、日本や包装の進むべき道の模索にお役立ていただければと存じております。

第 2 回2023年
6月号

包装技術 隔月連載
パッケージを取り巻く世界の動向

株式会社 パッケージング・ストラテジー・ジャパン

取締役社長 森 泰正

4月号よりスタートした「パッケージを取り巻く世界の動向」の第1回のテーマは「EUのパッケージ規制」であった。欧州のサーキュラーエコノミーの柱は,廃棄物の徹底管理と削減であり,よく知られた「廃棄物ヒエラルキー」のもとに,廃棄物の発生を抑制し,資源循環を高めることが優先されている。

プラスチックは工業的に大量生産・供給され,他素材に比べ安価で軽量で,耐久性,衛生性に優れておりパッケージに大量に使用されているが,その一方で,海洋廃プラスチックに代表されるように環境汚染の元凶として反プラスチックの動きが高まり,使用の抑制と循環型パッケージへの転換が求められている。

第2回は,欧米の大手化学メーカーと先駆的なエンジニアリング ベンチャーが連携した投資が相次いでいる,最新のケミカルリサイクル(最近では「ケミカル」という呼称も反対派の批判の論拠となっており,「高度なリサイクル“Advanced Recycling”」という呼び名が定着してきた)の進捗状況を報告する。

ケミカルリサイクルは,EUや米国でもリサイクル技術としてまだ公式に認められていないが,EU主要国のドイツ,フランス,スペインや,英国では既に廃プラスチックを回収して熱分解するプラントが既に稼働している。新規プロジェクトも相次いでおり,各国政府も優遇税制や建設予定地の造成,港湾整備などの支援に乗り出しており,近い将来,メカニカルリサイクルを補完する技術として承認されるだろう。米国でも連邦議会や州議会の議員の中には反対派も多いが,既に全米50州のうち22州の州議会が承認しており,テキサス州やルイジアナ州では8ヵ所の熱分解プラントが稼働している。米化学工業会(ACC)によれば,現時点でも全米150ヵ所で建設や増設が検討されているという。

ケミカルリサイクル技術の今後について語る4人のリーダー 左から,司会者のDan Lief氏(Resource Recycling),Candace Rutherford氏(Brightmark),Holli Alexander氏(Eastman),Rachel Dial氏(PureCycle),Natalie Martinez氏(ExxonMobil)
図1ケミカルリサイクル技術の今後について語る4人のリーダー
左から,司会者のDan Lief氏(Resource Recycling),Candace Rutherford氏(Brightmark),Holli Alexander氏(Eastman),Rachel Dial氏(PureCycle),Natalie Martinez氏(ExxonMobil)

2023年2月のMcKinseyの調査レポートでは,2040年近傍にケミカルリサイクルで再生される循環型プラスチックの生産能力は25百万トンとなり,メカニカルリサイクルと合わせた循環型プラスチックの供給能力は1.25億トンに達すると予測している。これは2040年に見込まれているプラスチックの世界市場規模6.7億トンの18%に相当する。

去る3月に米国NGO法人資源リサイクル協会が主催するプラスチック リサイクリング会議が3日間にわたりWashington DCのウォーターフロントNational Harborで開催された。最終日の3月8日の国際女性デーには,ケミカルリサイクルに取り組む4社の女性リーダーが登壇,彼らが取り組んでいるケミカルリサイクル技術について発表した。本稿では,うち2社の発表について紹介する(図1)。

Eastmanのガス化技術とメタノリシス解重合技術

EastmanのHolli Alexander氏のPETのメタノリシス解重合,再重合プロセスのプレゼンテーション
図2EastmanのHolli Alexander氏のPETのメタノリシス解重合,再重合プロセスのプレゼンテーション

EastmanのHolli Alexander氏は,循環型プラスチックを追求する2つのケミカルリサイクル技術を紹介した(図2)。

 「1つは,現在稼働中の熱分解法のガス化による炭素再生技術です。もう1つはPET樹脂を再生するメタノリシス技術で,これは今年の夏にテネシー州Kingsportの当社のプラントが完成し,稼働します。今とてもワクワクしています」。

「炭素を再生するガス化技術は,さまざまな材料を,プラスチックの基礎原料である炭化水素,一酸化炭素,水素に分解します。Eastmanはガス化技術を使い,再生された原料を精製,前処理して,様々なプラスチック材料に再重合します。このプロセスで再生された循環型プラスチックは,化石由来のバージンプラスチックと全く同じ物性や品質を持っています」。

「私たちはメカニカルリサイクルが困難な廃プラスチックの再生手法として,ケミカルリサイクル技術を活用します。メカニカルリサイクルを補完する位置づけです。こうすることでリサイクルのパイを拡大することができます。例を挙げると,USAMP(米国自動車材料パートナーシップ)とPADNOS(自動車のスクラップ業者)との共同プロジェクトを通じて,廃自動車のシュレッダーをリサイクルする取り組みがあります」(Alexander氏)。

「メタノリシスの場合も,Eastmanは多様なポリエステル製品を受け入れ,前処理とソーティング工程を経て解重合し,テレフタル酸ジメチル(DMT)とエチレングリコールに再生します。これらのモノマーを原料として再重合し,バージン品と同等の循環型PETGポリマーを生産します。化粧品容器や機械部品,食洗機等の電気製品など,透明性や強靭性,耐久性が求められる分野に使用されています。

メタノリシス解重合プロセスで使用される廃プラスチックは,メカニカルリサイクルに適さない汚染が激しい,あるいは着色されたPET容器や廃PET繊維,難燃剤などが配合された廃カーペットを使います。私たちは,Recycling PartnershipのメンバーであるPET Coalitionと連携して,廃PET製品の収集チャネルを拡げ,分別技術を改善しています」。

PureCycleのPPにフォーカスしたリサイクル

PureCycleは,PETやPEではなく,プラスチックの中で最も大量に使用されていながらリサイクル率が低い廃PPをターゲットにして,溶剤精製とフィルトレーション技術で選択的にPPを回収,再生するプロセスを開発した。廃プラスチックを熱分解して合成ガスや合成油からポリマーを再生するプロセスや,廃PET製品をモノマーに解重合して再重合するプロセスとは異なり,元のポリマーを分解しないので,厳密にはケミカルリサイクルではない。前述のように“Advanced Recycling”と呼ぶ方が適切だろう。

「私たちの溶剤精製プロセスは,多くの廃PPに含まれている着色剤,臭気物質,PP以外のプラスチック,及びその他の汚染物質を取り除くことができるメカニカルな分離プロセスです。PureCycleは化学溶剤を使用して廃PPを溶解し,PPを選択的に取りだし,バージンPPペレットのように無臭で透明にします」とプロジェクトチーフのRachel Dial氏は説明する。「メカニカルな分離プロセスは化学反応を伴わないため,プロセスから人体に有害となるリスクがある副産物や排出物を生成することはありません。私たちは商業ベースの廃PP再生プロセスでLCAを実施し,良好な結果を得ました。化石由来のバージンPPの生産と比較して,温室効果ガス排出量が35%減少し,エネルギー消費量も79%減少したのです」。

会議で示されたPureCycleのPP再生資源調達戦略のプレゼンテーション
図3会議で示されたPureCycleのPP再生資源調達戦略のプレゼンテーション

PPをターゲットにした再生技術を量産体制に移行するにあたり,PureCycleは再生用の廃プラスチックを大量に確保する必要がある。PureCycleは以下の4つの調達戦略を実行し,バージンライクPPの供給を拡大していくという(図3)。

・路上回収され,MRFで分別された再生資源の確保

  1. (1) #5(PP)のベール
  2. (2) #3(PVC)~#7(その他プラ)のベール
  3. (3) 分別残渣

・路上回収の対象でない再生資源の確保

  1. (1) 共同回収プロジェクト(PP Collationらとの連携)
  2. (2) 輸入ソースの拡大
  3. (3) 各種イベント会場での回収活動(PureZeroプログラム)

・PIR(生産ロスなどの工場廃棄物)の確保

・情宣活動

プラスチック消費国に散在する都市油田とも称される廃プラスチックを,回収する仕組みをつくるには大変な苦労が求められるが,これがリサイクルの出発点だ。