“世界”を知る

「包装技術」より、包装に関連する世界動向などを扱った記事を抜粋してお届けいたします。

世界の動きを読むことで、日本や包装の進むべき道の模索にお役立ていただければと存じております。

第二報2023年
9月号

報告
包装材料を取り巻く環境問題の最新動向

一般財団法人 化学研究評価機構 食品接触材料安全センター

情報調査・広報室長 石 動 正 和

           M. Isurugi

Later Trends in Environment Issues on Packaging Materials

This section introduces the regulations on packaging materials in Europe that were clarified last year. One is the Plastic Food Contact Material Recycling Regulation, promulgated on September 15, 2022, and the other is the Packaging and Packaging Waste Regulation (draft) November 30, 2022. We will organize the points of these regulations and consider their impact on Japanese companies.

はじめに

今回は欧州における包装材料規制に係る最新情報を紹介する。

包装及び包装廃棄物指令(PPWD)94/62/EC[1]は,包装の構成とそのリユース可能で回収可能な性質,及び回収とリサイクルの目標に関連する必須要件など,包装に関するEU加盟国の要件を定めた。その後,EUは,グリーンディール(2019年12月11日)[2]の下,サーキュラーエコノミーアクションプラン(2020年3月11日)[3]により,2030年までに全ての包装をリユース可能又はリサイクル可能とするターゲットを定めた。こうした背景の下,指令を規則に格上げする形で,包装及び包装廃棄物規則の改正が検討された。

[1] 包装及び包装廃棄物指令(PPWD)

[2] 欧州グリーディール

[3] 欧州サーキュラーエコノミーアクションプラン

1.プラスチック食品接触材料リサイクル規則

包装及び包装廃棄物規則(案)を取り巻く状況として,最も注目すべきは,プラスチック食品接触材料リサイクル規則の公布である[4]。

[4] プラスチック食品接触材料リサイクル規則

欧州委員会は,この規則を2022年9月15日採択し20日公布した。ポイントをつぎに示す。

  • ・従来のリサイクル規則(EU)No 282/2008が,主にPETのメカニカルリサイクルを対象に制定されたのに対し,2015年サーキュラーエコノミーアクションプラン,2018年プラスチック戦略に基づき,ケミカルリサイクルを含む幅広いリサイクルプラスチック食品接触材料成形品を対象とする(リサイタル⑴,⑻)。

  • ・リサイクルプロセスの新規技術は,これまで通りEFSA評価を経て欧州委員会が認可する(第3条⑸,第14条,第19条)。このプロセス認可を保持する事業者は,プロセスに係るリサイクル業者に除染設備の操作を許可でき,規則遵守に必要な指示(instruction)を出すことが求められる(第21条⑶)。事業者は,認可されたリサイクルプロセスから得られる材料,成形品,それらに接触する食品に係る民事,刑事上の責任に影響を受けない(第21条⑴)。このことは,認可を保持する事業者への免責事項として注目される。

  • ・リサイクル業者は関連情報をまとめた適合監視要約シート(附属書Ⅱ)を欧州委員会に提出し登録される(第26条⑴)。登録簿では「新規登録」(第25条⑵)→「確認」(第26条⑵)→「有効」(第26条⑶)の段階を経る。新規登録の中で,リサイクル認証番号,リサイクルオペレーター番号,リサイクル設備番号(注:特に除染システムに係る),リサイクルスキーム番号,新規技術番号がそれぞれ割り当てられ管理される(第24条⑶)。

  • ・リサイクル業者は規則遵守の適合宣言作成が求められ(第5条⑵,第29条⑴,附属書ⅢパートA),ユーザーであるコンバーターに指示を出す(第29条⑵)。コンバーターも又規則遵守の適合宣言作成が求められる(第29条⑶,附属書ⅢパートB)。更に下流のコンバーターに引き渡すとき指示を出す(第8条⑴⒝)。

  • ・2023年7月,欧州委員会はリサイクルプラスチック食品接触材料規則のガイダンスを更新した[5]。

[5] プラスチック食品接触材料リサイクル規則ガイダンス

特に注目されるのは,2023年7月18日までの受理登録に基づき,リサイクル施設番号(RIN),リサイクル工場番号(RFN),リサイクル業者番号(RON)の登録内容が公表されたことである。登録簿(リポジトリ)にある登録数をつぎにまとめる(表1)。

表1 リサイクル施設番号(RIN),リサイクル工場番号(RFN),リサイクル業者番号(RON)の登録数
登録簿 セクションA セクションB
登録機関 2022年12月31日まで 2023年1月1日~7月18日
登録数 施設RIN 工場RFN 業者RON 施設RIN 工場RFN 業者RON
EU域内 233 233 233 176 176 176
EU域外 79 65 64 41 41 40

EU域内,域外に位置するリサイクル施設をそれぞれ集計している。ここで登録されたPETのメカニカルリサイクルプロセスは,認可に関する決定が通知されるまで,その認可がなくても引き続きリサイクルプラスチックの上市に使用できる。特にEU域外に施設を立地して登録されたリサイクルプロセスが注目される。

2.包装及び包装廃棄物規則(案)

2022年10月18日欧州委員会は,「包装及び包装廃棄物規則」(案)を非公開ながら欧州域内の業界団体等ステークホルダーに紹介し(以下,非公開版)[6],その後11月30日に「包装及び包装廃棄物規則」(案)を公表した(以下,公開版)[7]。

[6] 「包装及び包装廃棄物規則」(案)(非公開版)

[7] 「包装及び包装廃棄物規則」(案)(公開版)

この公開版のポイントを,包装及び包装廃棄物指令,非公開版とそれぞれ比較して示す(表2)。

表2 包装全体におけるリサイクル率(重量ベース)のターゲット(第46条)
包装 包装及び包装廃棄物規則(案)
(2022年11月30日)公開,
(2022年10月18日)非公開
包装及び包装廃棄物指令(PPWD)
(2018年5月30日)
2025年12月31日
までに
2030年12月31日
までに
2025年12月31日
までに
2030年12月31日
までに
プラスチック 50% 55% 50% 55%
25 30 25 30
鉄金属 70 80 70 80
アルミニウム 50 60 50 60
ガラス 70 75 70 75
紙・板紙 75 85 75 85

公開版のターゲットは,いずれも既存の包装及び包装廃棄物指令(PPWD)のターゲットを踏襲したものである。また非公開版からも変化はない。

表3 包装製品におけるリサイクル材の最低含有率(重量ベース)のターゲット(第7条)
包装
(注:下記名称は簡略化している)
「包装及び包装廃棄物規則」(案)
(2022年11月30日)(公開版)
「包装及び包装廃棄物規則」(案)
(2022年10月18日)(非公開版)
2030年
1月1日以降
2040年
1月1日以降
2030年
1月1日以降
2040年
1月1日以降
接触に敏感な(第3条(40))
PET包装
30%
使い捨てプラスチック飲料ボトル
以外での接触に敏感な包装
10 50% 25% 50%
使い捨てプラスチック飲料ボトル 30 65 50 65
それ以外 35 65 45 65

公開版のターゲットは,PET包装を優先させる一方,業界の意見を基に,非公開版から一部緩和した。全体に,シングルユースプラスチック指令(SUPD)に示されたPET飲料ボトルは2025年に25%,その他全てのプラスチック飲料ボトルは2030年に30%としたターゲットに比べ,中,長期的に強化されたといえる。

表4 包装のリユースのターゲット(第26条)
包装
(注:下記名称は簡略化している)
「包装及び包装廃棄物規則」(案)
(2022年11月30日)(公開版)
「包装及び包装廃棄物規則」(案)
(2022年10月18日)(非公開版)
2030年
1月1日以降
2040年
1月1日以降
2030年
1月1日以降
2040年
1月1日以降
冷たい又は温かい飲料のテイクアウト容器 20% 80% 30% 95%
調理済食品のテイクアウト容器 10 40 20 75
アルコール性飲料の容器 10 25 20 75
発酵飲料の容器 10 25 20 75
ワインの容器 5 15
清涼飲料水の容器 10 25 20 75
輸送包装(パレット等) 30 90 50 90
輸送包装(インターネット通販) 10 50 20 80
輸送包装(パレットのラッピング等) 10 30 20 75
グループ化された包装(第3条⑶) 10 25 10 50

公開版の規制値は,業界の意見を基に非公開版の値から緩和された。

■デポジット返還システム(DRS)(第44条)

リユースに関連し,2029年1月1日までに,3Lまでの使い捨てプラスチック製飲料ボトル,同じく3Lまでの使い捨て金属飲料容器に,強制力あるデポジット返還システム(DRS)が導入される。ワイン及び蒸留酒,乳及び乳製品の容器には適用されない。

■QRコード(第11条)

包装にQRコードが付けられる。消費者には例えば包装のリユースのための収集ポイントが示され,行政にはトレーサビリティ関連情報が示される。

■堆肥化可能な包装(第8条)

規則発効から24ヵ月までに,ティーバッグ,コーヒーフィルター,果実・野菜の粘着ラベル,非常に軽量なプラスチック製のショッピングバッグ(t≪15µm)(第3条)は,堆肥化可能な包装とする。

■リサイクルの性能等級(第6条,附属書Ⅱ)

包装は,リサイクル可能性を指標にした5つの性能等級A~Eに分けられる。リサイクル可能性が70%未満と評価された包装は性能等級Eとされ,2030年1月1日を目途に欧州市場からフェーズアウトされる方向にある。

■非公開(案)との違い

今回の公開(案)は,非公開(案)に比べ,特に,包装のリユースのターゲットが緩和されたこと,業界の強い要請によりリサイクル性能等級Eを例示したネガティブリストが消除されたことが注目される。

3.規則案に対する欧州業界団体からの反応

欧州業界団体は,今回の改正の意義を認めつつも,最初に協議された非公開版の規制内容を非現実的である,業界の負担が重すぎるとして強く反対した。その結果,公開版では規制値が一部緩和された。こうした中,最も注目されるのが,非公開版においてリサイクル性能等級Eを例示したネガティブリストである。ネガティブリストに上げられた材料,製品は,2030年1月1日を目途にフェーズアウトされる可能性がある。

◎リサイクル性能等級のEに示唆されたネガティブリスト(非公開版附属書ⅡパートD)

プラスチック

  1. ⒜ 確立されたNIR選別技術では検出できないプラスチック包装

  2. ⒝ 表面の50%以上をカバーするスリーブを備えたプラスチック包装。医薬品包装は免除されるものとする

  3. ⒞ 材料の密度を1g/cm3超に変えてしまうような添加剤を含むプラスチック包装

  4. ⒟ アルミニウム,PET-G,PLA,PVC,及びPSの層を含む多層プラスチック包装(複数のポリマーを含む)。医薬品包装は免除されるものとする

  5. ⒠ PVC/PVDC包装(及びラベル/スリーブ/フィルム)。医薬品包装は免除されるものとする

  6. ⒡ XPS包装(注:附属書XのC表1より食品容器を意味すると考えられる)

  7. ⒢ PAバリア層

  8. ⒣ 懸念物質を含まないインク,にじみやすいインクの使用

  9. ⒤ 65℃未満で非水溶性/水剥離性接着剤を使用したPET包装

  10. ⒥ 40℃未満で非水溶性/水剥離性接着剤を使用したポリオレフィン包装

紙・板紙

  1. ⒜ 確立されたプロセスでは分離できないプラスチックのコンポーネントを含む紙ベースの包装

  2. ⒝ シリコーン/ワックスコーティング

  3. ⒞ 不溶性接着剤+60℃未満の軟化点をもつホットメルト接着剤

  4. ⒟ 懸念物質[3]を含まないミネラルオイル系顔料・インキ

  5. ⒠ 両面プラスチックバリア/コーティング/ラミネート

  6. ⒡ PP/PETメタライズラミネート,PETメタライズフィルムを使用したインク/加飾要素

ガラス

  1. ⒜ 耐熱ガラス(ホウ素ケイ酸ガラスなど),鉛クリスタル,氷晶石ガラスなどの非包装ガラス及び不融性材料(即ち,ガラス包装と同じ温度で溶けない材料)

  2. ⒝ 不透明・濃い色(黒,紺)

  3. ⒞ 全面スリーブと永久接着/超粘着接着剤付きラベル

  4. ⒟ クロージャーなどのセラミック/磁器部品

金属(アルミニウム/スチール)

  1. ⒜ PVCラベル

  2. ⒝ 鉛系材料

持続可能性のための化学物質戦略で述べられるように,人の健康又は環境に慢性的影響を与える物質(REACHの候補リスト及びCLP規則付属書VI)だけでなく,安全で高品質の二次原材料のリサイクルを妨げる物質。

4.日本企業として注意を要する点

今回の公開版は,立法機関である欧州議会及び閣僚理事会の精査を受け,改めて改訂版が公表されると予想される。そのため現段階で今後の見通しを述べることは難しい。こうした中,現在までに公表された(案)に基づいて,日本企業としての最も注意を要すると考えられる点は,リユースへの取組みはだれも反対しないが,実はそのターゲットが,長期の輸送が必要な輸出国にとって経済的に大きな負荷が生じる。即ち空になった容器包装を日本まで戻すことは経済的に成り立たないため,事実上の非関税障壁になるのではないかという懸念である。また輸出環境に直接係るリサイクル性能等級Eのネガティブリストの影響である。ここに示された材料,製品は2030年1月1日を目途にフェーズアウトが課せられる。先頃の欧州の環境政策の厳しさとスピードを見るとき,今,日本企業として注意を要する点は,このネガティブリストへの対応,代替策の検討である。