“世界”を知る

「包装技術」より、包装に関連する世界動向などを扱った記事を抜粋してお届けいたします。

世界の動きを読むことで、日本や包装の進むべき道の模索にお役立ていただければと存じております。

第一報2023年
7月号

報告
包装材料を取り巻く環境問題の最新動向

一般財団法人 化学研究評価機構 食品接触材料安全センター

情報調査・広報室長 石 動 正 和

           M. Isurugi

Latest Trends in Environmental Issues on Packaging Materials

Environmental issues on packaging materials are showing intense movement mainly in EU, US, and United Nations. The Japanese Government recently made the big decision to join “The High Ambition Coalition to End Plastic Pollution” (HAC) led by EU and developing countries. This article introduces the latest trends in environmental issues on packaging materials.

包装材料を取り巻く環境問題は,欧州,米国,国連を中心に激しい動きを見せている。こうした中,日本は先頃,欧州と発展途上国がリードしてきたプラスチック汚染を終焉させる高い野心の連合(HAC)に加盟するという大きな決断をした。今回はこうした包装材料を取り巻く環境問題の最新動向を紹介する。

1.欧州の動き(プラスチック汚染を終焉させる高い野心の連合(HAC))

欧州の動きは,国連のプラスチック汚染防止条約に係る政府間交渉委員会(INC)での議論が始まる中,発展途上国とともにHACに一体化していった。この連合のターゲットについて,2023年5月26日公表された共同閣僚声明から紹介する。

◎「HAC共同閣僚声明INC-2」2023年5月26日

海洋環境を含むプラスチック汚染に関する法的拘束力のある手段を開発する第2回政府間交渉委員会(INC-2)会合を前に,私たちプラスチック汚染撲滅のための高い野心の連合の54人の閣僚は,力を合わせ2040年までにプラスチック汚染をなくすことを約束する。(中略)

一次プラスチックポリマーの生産と消費を抑制し,持続可能なレベルまで削減するための拘束力のある規定を条約に求める。

不要な,回避可能な,又問題のあるプラスチック,並びに環境や人間の健康への悪影響により特に懸念されているプラスチックポリマー,化学成分,及びプラスチック製品を排除し,予防原則を説明し,循環性への影響を考慮し,制限するための拘束力のある規定を条約に求める。

回避可能なプラスチック,不要なプラスチック,問題のあるプラスチックの削減に焦点を当て,合意された一連のプラスチック製品のみ確実な使用を保証するなど,廃棄物の階層に基づいて,経済におけるプラスチックの安全な循環性を高めるための拘束力のある規定を条約に求める。基準は生産,輸入,輸出,市場に投入され,削減,修理可能性,環境に優しく安全なリサイクル可能性と再利用,詰め替えシステム,リサイクル材の使用などの主要分野での目標を達成するよう締約国に求める。(後略)

2.米国の動き(プラスチック汚染撲滅国際協力(EPPIC))

2023年5月9日は,米国国務省は,プラスチック汚染撲滅国際協力(EPPIC)官民パートナーシップを入札公告した(募集期限:7月8日)。

◎国務省「プラスチック汚染撲滅国際協力(EPPIC)官民パートナーシップ」

この取組みは,バージンプラスチック生産量削減を前提にしないで,上流の設計及び生産におけるイノベーションにより,プラスチックのライフサイクル全体に亘る循環性を高めるソリューションを推進する。今後,HACへの対立軸を形成する可能性があるが,この動きは,3年間の取組みの中で,環境問題へ解決に技術革新を重視するものである。その点,堅実な道であるが,動きの速いHAC,INCに対応できるか懸念される面もある。

3.国連の動き(プラスチック汚染防止条約に係る政府間交渉委員会(INC))

国連は,プラスチックの生産量は,このままでは一方的に増加し,2060年には2019年比3倍になると推測している。INCの議論に入る前に,議論の枠組みは,規制内容を一律に適用するペルー・ルアンダ案と各国の状況を考慮して適用する日本案に絞られた。欧州は前者,米国は後者に与すると見られた。こうした背景の下,国連プラスチック汚染防止条約に係る政府間交渉委員会(INC)は,バージンプラスチック生産量削減を含めた議論に入る。

2023年5月29日~6月2日開催されたINC-2における主要な文書を紹介する。

◎「UNEP/PP/INC.2/2 海洋環境を含むプラスチック汚染に関する国際的な法的拘束力のある手段を開発する政府間交渉委員会第2回セッションのシナリオノート」2023年4月12日(4月26日HP掲載)。

ここで委員会議長より,コンセンサス領域の特定とありうるオプションの絞り込みを前進させるため,コンタクトグループの設置が提案されたことが分かる(通し番号21~29)。コンタクトグループは2つ設置され,一つはUNEP/PP/INC.2/4のA.目的及びB.コアとなる義務,管理手段,及び自発的アプローチを担当し,もう一つはC.実施手段,D.実施措置,及びE.追加事項を担当する。

◎「UNEP/PP/INC.2/4 国連環境総会決議5/14で求められるように,プラスチックのライフサイクル全体に対処する包括的アプローチに基づく,国際的な法的拘束力のある手段に向けた要素の潜在的オプション」2023年3月13日(4月14日HP掲載)

ここで,規制のオプションとしてつぎのような厳しい内容が確認される(附属書 通し番号10)。

「主要なプラスチック原材料の生産を削減するための世界的目標を設定する。」

「一次プラスチックポリマーの生産を一時停止するか,バージンプラスチックポリマーの製造,輸出入を禁止,制限,又は削減する。」

「バージン及び二次プラスチックポリマーの製造,輸入,及び輸出のためのライセンススキームを確立する。」

「問題のある回避可能なプラスチック製品の使用を禁止,段階的廃止,及び/又は削減する。」

これらの具体的内容は,今後,手段の附属書に示される。

一方,各国の事情を勘案するオプションも確認できる。

「自国の事業を考慮し,約束の実施において各国の裁量を認めることの柔軟性」(附属書Ⅲ)

◎「UNEP/PP/INC.2/INF/4 国際的な法的拘束力ある手段に向けた要素の潜在的オプションに関連する追加情報」2023年5月23日。

交渉においてターゲットとなるプラスチック材料や化学物質が具体的に示された。またストックホルム条約など既存の国際条約やSAICMが引用され,この手段との関連付けが意識されている。

◎「UNEP/PP/INC.2/INF/8 蛇口を閉める:如何に世界はプラスチック汚染を終え循環経済を創出するか」2023年5月16日(5月17日HP掲載)

プラスチック環境問題の解決を図るため,最初に既存の分野を対象に,問題のある不要なプラスチックの使用を排除し,問題のサイズを小さくするとある(1.5.1)。

ここで,問題のある不要なプラスチックの使用につぎの基準が示される(1.5.5)。

  1. 1)実際に,また大規模に(グローバルコミットメントの定義に従って)再利用,リサイクル,又堆肥化はできていない。

  2. 2)人の健康又は環境に重大なリスクをもたらす有害な化学物質が含まれている(予防原則の適用)。

  3. 3)実用性を維持しつつ,それを回避(又は再利用モデルに置き換え)できる。

  4. 4)他の品目のリサイクル可能性や堆肥化可能性を妨げたり混乱させたりする。

  5. 5)ポイ捨てされたり,自然環境に流出する可能性が高くなる。

これにより,システム変更シナリオで製品設計は次のようになる(2.2.2)。

  • ・2030年までに世界の多材料軟質製品の50パーセントを単一材料又はリサイクル可能な組み合わせに切り替え,2040年までに100パーセントを切り替える。

  • ・リサイクルの経済性を妨げる染料,顔料,添加剤を全て除去する。

  • ・プラスチックの種類と形式の均質性を高め,リサイクルが困難で問題のあるポリマー(例:包装材料のポリ塩化ビニル,ポリスチレン,発泡ポリスチレン)をデザインアウト及び/又は禁止する。

  • ・顧客がより適切に廃棄物を分別できるよう,ラベル表示を改善及び標準化する。

  • ・全ての新製品に使用される消費済リサイクル材(PCR)の量を増やす(例えば2040年までに寿命の短い製品では35%に,表3(Table 3:The systems change scenario outcomes and scale of change in the next 5 years and by 2040.)参照)。

  • ・有害な化学物質を排除し,安全で持続可能な代替物質を促進及び開発し,グリーンで持続可能な化学に関するUNEPの取組みなど既存の取組みを発展させる(UNEP 2022b)。

問題のある不要なプラスチック製品の禁止は,再利用,リサイクルの本格推進に先立ち,最初の段階,2025年以降実施される(4.1表8(Table 8:Policy and legislative options to support the market transformation.))。また,多材料軟質製品の単一材料化,リサイクル化は,技術的難度からプラスチック業界に留まらず食品業界にも深刻な影響を及ぼすと言わざるを得ない。

◎「UNEP/PP/INC.2/L.1 海洋環境を含むプラスチック汚染に対し国際的に法的拘束力のある手段を作成するための政府間交渉委員会第2回セッションの作業に関する報告書案」2023年6月1日

INC-2本会議の注目すべき様子を伝えている。即ちINC-1から持ち越された副議長の指名(日本からの環境省小野審議官を含む)が決定した(通し番号13~35)あと,同じく持ち越された手続き規則案UNEP/PP/INC.2/3の中で,議決権に係るルール37,多数決に係るルール38パラグラフ1にタフな議論が続いたことを示唆している(通し番号37~64)。例えば,後者は,INCは合意を目指すも,合意に至らないとき2/3の多数決を提案している。この多数決は,義務を全ての国に一律に適用するか,各国の事情を勘案するかなどの成否を分けるものであり,各国・経済圏のコンセプトと利害を背景に容易に妥協できないポイントである。本会議は見解の相違があることを確認し,正式決定を先送りした(通し番号62)。この先送りはINC-3に向け重い課題を残したと見られる。

国連は,INC-2終了後,11月末開催されるINC-3までにゼロドラフト(国際条約の初案)を作成することを明らかにした。

4.日本の動き(HACへの加盟)

日本はこれまで排出段階での実績を基に,生産段階の議論に慎重な対応をしてきた。同じ歩調を取ってきたと思われた米国が主導すると期待されたプラスチック汚染撲滅国際協力(EPPIC)の動きが遅れているという状況判断があったと聞いている。

日本は,5月29日~6月2日,国連政府間交渉委員会第2回セッション(INC-2)が迫る5月26日,HAC共同閣僚声明とタイミングを合わせてHACへの加盟を公表した。バージンプラスチックの生産量削減を謳うHACに敢えて加盟する狙いは,このままでは日本はINCの議論に孤立して対応せざるをえない。HACの議論に積極的に参画し,生産量削減ありきではなく,プラスチックのライフサイクルの全ての段階において汚染対策に向けた取組みを促し,各国の状況とその有効性を含む社会経済的影響を考慮に入れ,実効的かつ進歩的な条約の策定を目指すことにあった。

◎外務省・経産省・環境省プレスリリース(2023年5月26日)

日本政府はHAC加盟に先立ち,HAC議長国のノルウェーに,生産量削減議論について一律の適用ではなく「各国の状況を考慮する」ことを確認している。また,プラスチックの回収・リサイクルの実績において,HACの中心にいる欧州が50%前後であるのに対し,日本は90%(注:含熱回収)を超える実績を主張することで,影響力を行使できると考えている。更に,最近の全体状況から,INCの生産量削減議論を覆すのが難しいと理解しており,狙っているのは「各国の状況を考慮する」ことによる国内産業の保全である。いずれにしても,日本政府は大きな決断をした。

包装材料を取り巻く環境問題は,欧州,米国,国連を中心に予断を許さない動きを見せている。これにより,2023年9月26日,日本包装技術協会主催「包装情報ステーション」で講演するとともに,「包装技術」に引き続き最新情報を紹介する計画である。