“世界”を知る

「包装技術」より、包装に関連する世界動向などを扱った記事を抜粋してお届けいたします。

世界の動きを読むことで、日本や包装の進むべき道の模索にお役立ていただければと存じております。

第4回2023年
10月号

包装技術 隔月連載
パッケージを取り巻く世界の動向

株式会社 パッケージング・ストラテジー・ジャパン

取締役社長 森 泰正

はじめに

EUで食品容器にPCR(使用済み包装容器をリサイクルした再生樹脂)の使用を認める法改正が行われ,再生PETや再生HDPEの食品グレードのサプライヤーが次々登場している。そんな中,懸念されているのが,PCRの残留異臭,異味対策だ。フランスのハイテク・スタートアップ企業Aryballe1)は,コンピューター解析によるデジタル嗅覚ツールを開発した。人間の脳が臭気を感知する仕組みを取り入れたとのことで,化石由来のバージンプラスチックと少なくとも同じ臭気水準にあることを定量的に測定するこのツールを使用すれば,バージンプラに所定のPCRが配合された包装容器の臭気情報を視覚化して確認することができるという。将来こうした臭気分析ツールを活用した技術が,循環型パッケージのガイドラインとして組み込まれるようになるかもしれない2)

再生材(PCR)含有食品包装の課題-異臭と異味の検知

パッケージのサーキュラリティを推進する要件として,包装材料の安全・衛生性に加え,官能特性(パッケージの臭気や中身の味覚)でも市場で許容される良好な結果を出すことが重要だ。

特にEUや北米ではパッケージに再生材を使用することを義務付ける法制度が進められつつある中,消費者も再生材の安全性には敏感になっており,パッケージ設計における喫緊の課題の一つになってきた。

特に食品メーカーの新製品開発やパッケージの研究開発プロセスにおいて,官能特性はいうまでもなく重要実施項目の一つで,メーカーは新しい包装材料が食品や飲料の本来の風味を損なわず,時間が経過しても中身の味覚プロファイルが変化しないこと,更には外部環境やパッケージが,内容物の特性に悪影響を与えることがないよう品質管理に万全を期す必要がある。たとえば,消費者がパッケージを開封したときに感じるプラスチックの異臭やその他の刺激臭は,その原因を食品や飲料の変質や腐敗,あるいはパッケージに添加された安定剤などの化学物質の反応に由来するものと判断され,ブランド価値そのものが損なわれるケースもある。

パッケージの臭気や,食品や飲料の味覚の変質が注目されるもう一つの要素として,EUでは包装材料に再生材の使用が義務付けられ,メーカーにとってパッケージの品質管理や機能確保のバーが一段と上がったことも背景にある。

こうした中,多くのパッケージング企業は,持続可能な包装材料の開発を進めるに当たり,リサイクルが容易なモノマテリアル材料,食品用途に使用できる再生プラスチック,再生可能素材である紙ベースのパッケージという3つの技術に焦点を当てている。

モノマテリアル包材を使用すれば,リサイクルは容易になるが,マルチマテリアルと同レベルのガスバリア性や印刷適性,包装機械適性を実現するには,まだ課題も多くある。また,再生プラスチックを使用する場合,良質な再生材の安定調達や,メカニカルリサイクルされる前に包装していた内容物の残渣の臭いが残るといった課題が挙げられる。

紙ベースのパッケージは,単独ではシェルフライフが短くなる。特に紙は吸水性がプラスチックに比べ高いという包装材料としての致命的な欠点があり,これを改善するためにコスト競争力やリサイクル性を犠牲にせざるを得ないケースもある。このように,既存のプラスチック包装材料を代替して,循環型パッケージへの道を拡げていくためのハードルは高い。

こうした時代の要請を受け,フランスのスタートアップ企業Aryballe社が提案するデジタル嗅覚技術が今,欧州で注目されている。

図1 出典:Eurostat

Aryballeのハードウェア

AryballeのシリコンフォトニクスのプラットフォームをベースにしたNeOse Advanceは,臭気データを確実かつ,一貫して検知,記録,認識する。

Aryballeのセンサーモジュール

Aryballeのコアセンサーモジュール(CSM)は,何千もの臭気に敏感に反応するユニバーサルなソリッドステート臭気センサーで,臭いの原因となる揮発性有機化合物(VOC)を検出する。検知された化学物質を分析して,臭いの由来を特定する。

図1 出典:Eurostat
図1 出典:Eurostat

Aryballeのソフトウェア&データ

Aryballe Suiteは,顧客のニーズに基づいて包材の臭気に直感的にアクセス,カスタマイズして使用できるクラウド対応のソフトウェア。左図のようなデータシートを直ちに作成する。

官能評価はデジタル技術で

Aryballeのデジタル嗅覚技術は人間の脳が臭いを検知,識別する仕組みを模倣したもので,回収,分別,再生された使用済みパッケージをデジタル技術で解析し,その一部が使用された循環型パッケージと既存のパッケージの臭気特性を比較,分析し,同じレベルまで配合するのに役立つ技術だ。

同社のデジタル嗅覚ツールは,包装材料や包装された食品や飲料に異臭・異味を検知すればアラートを発するので,食品メーカーが循環型パッケージの健全性を証明する科学的な拠り所となる。デジタル嗅覚ツールを使用することで,ユーザーは使用したい再生プラスチックやバイオマスプラスチックが,従来の化石由来のバージンプラスチックと少なくとも同じ水準にあることを定量的に確認できる。

また,比較評価するだけでなく,自動的に臭気成分のデータを時系列で提供してくれるので,新しい代替材料のスクリーニングを行う場合にも便利だ。Aryballeのシリコンフォトニクス(Silicon Photonics:半導体産業で利用される微細加工技術を用いてシリコン基板上に発光素子や受光器,光変調器といった素子を集積した基板)を搭載した機器を使用すれば,ユーザーはリサイクル材料を含有した包装材料が,消費者が許容する臭気レベルにあるか否かを瞬時に判定し,適切な組み合わせの包装材を直ちに選択することができる。

参考文献

  1. 1)Aryballe概要:https://aryballe.com/about-us/
  2. 2)米Packaging Digest誌 2023年6月8日号の記事:https://00m.in/aEj0s