“世界”を知る

「包装技術」より、包装に関連する世界動向などを扱った記事を抜粋してお届けいたします。

世界の動きを読むことで、日本や包装の進むべき道の模索にお役立ていただければと存じております。

第 1 回2023年
4月号

包装技術 隔月連載
パッケージを取り巻く世界の動向

株式会社 パッケージング・ストラテジー・ジャパン

取締役社長 森 泰正

今月号より,「パッケージを取り巻く世界の動向」というタイトルで「包装技術」の読者の皆さまに最新の海外パッケージ情報を隔月連載でご紹介してまいります。よろしくお願いいたします。

昨年末から今年に入り,欧州委員会は矢継ぎ早にパッケージ規制の改正案を打ち出しています。2019年に発効したEUと日本の経済連携協定(EPA)は,日本としては人口5億人超,世界のGDPの22%を占めるEU市場の取り込みを狙ったものですが,今後さらに厳格化される見通しのEU市場のパッケージ規制に日本からの輸出品も適合していかなければ,それは絵にかいた餅に終わります。逆にEU製品は低い関税障壁の下に,行き過ぎた円安に振れない限り大量に日本市場に流入してきます。日本でも人気のあるEUのチョコレート菓子やスナック食品,チーズなどの乳製品,化粧品やパーソナルケア製品などがストアの棚やネットの通販サイトに並べば国産品は大きな影響を被るでしょう。日本企業はEUの戦略を冷静,的確に分析し,迅速に対応策を検討,実行に移す必要があります。本稿では昨年秋から末にかけて相次いで提案された欧州委員会のパッケージ規制改正の戦略について考えてみます。

1.欧州委員会の包装・包装廃棄物指令(PPWD)改訂の狙いとターゲット

EUのPPWDは2018年12月に施行されて以降,欧州(本稿では特に断りがない限り,EU加盟27ヵ国+英国,ノルウェー,スイスの30ヵ国を指す)のパッケージ廃棄物規制の中心となっている。目指しているのは,廃棄物の発生防止と資源の持続可能な利活用で,包装廃棄物を回収,分別,再生して新たな価値を創り出し,サーキュラーエコノミーの実現に資することを目指している。ところが2018年以降,欧州のパッケージ廃棄物削減量は停滞し(図1,図2),重要な指標の一つであるプラスチックパッケージのリサイクル率は,2020年に40%を切り,このままでは2025年の目標である50%には到達できそうにない(図3)。

図1 出典:Eurostat
図1 出典:Eurostat
図2 出典:Eurostat   EUの固形廃棄物排出量推移(1995-2020)
図2 出典:Eurostat EUの固形廃棄物排出量推移(1995-2020)
図3 出典:Eurostat
図3 出典:Eurostat

そこで,欧州委員会は,昨年11月30日に「指令:Directive」を「法令:Regulation」に格上げし,法的拘束力を持たせて廃棄物削減を徹底する提案を採択,欧州議会に上程した。柱となるのは以下の3点で,2023年中に欧州議会と加盟各国の立法府で可決されれば,早ければ一部は2024年に,2025年には全面施行される予定だ。その中身は日本企業にとってはなかなか厳しいものがある。

1)包装廃棄物削減の数値目標を設定する:

 2021年を基準年に,2030年までに5%,2035年までに10%,2040年までに15%削減する。特にSUP指令を強化,使い捨てパッケージの流通を原則禁止する。

2)パッケージ設計の要件を厳格化する:

・全てのパッケージをリユース・リサイクル可能に設計し,EU全域に広く流通させる。

・リサイクル性の基準を設ける(例:A-Dはリサイクル可,EPRの料率に反映される。E判定はリサイクル不可で事実上市場での流通が困難になる)。

・プラスチックパッケージには,再生材(PCR)の含有率を定める(例:パッケージにより,2030年までに最低10-30%,2040年までに最低50-60%)。

3)拡大生産者責任(EPR)法に,エコモジュレーションを導入し,インセンティブとペナルティを設ける:

・EPRの料率は,リサイクル性,PCR含有率,パッケージの素材に応じて決定される(想定される料率は,200~2,000+€/トン)。

・パッケージごとに軽量化の最低基準を設ける。

・パッケージにEU共通の表示義務を課す(例:パッケージの素材やPCR含有率,リユースやリサイクルの可否など)。

2.欧州委員会の食品包装に再生材使用の道を開く戦略は吉とでるか?

EUは循環経済行動計画(CEAP)を戦略的に推進する一環として,2025年までに再生プラスチックのEU市場を1,000万トンに拡大するための数々の施策を打ち出している。中でもインパクトがあるのが,EUのプラスチック需要の40%を占めるパッケージへの再生材コンテントの義務化だ。特に昨年10月に欧州委員会が発表した食品包装にも再生材の使用を促す提案は,内外に大きな反響をもたらしている。食品包装はパッケージの50%を超える最大セクターであること,また食品に直接接触するケースも想定されるので,食の安全・安心を揺るがせかねない問題だとEUの専門家の間でも慎重論が上がっている。

既に飲料用PETボトルでは,100%再生材を使用したボトルが大手飲料メーカーの厳格な品質管理の下に回収,選別,再生され,ボトルtoボトルで流通しているが,これをそのまま食品全般に適用する場合,廃プラスチックの回収,選別,再生の各工程で解決すべき問題はあまりにも多い(図4)。

再生材市場では,食品用途の規格を満たす良質な再生プラスチックを巡り激しい争奪戦も予想され,調達力で劣る中小規模のパッケージメーカーの業界団体からも見直しや猶予期間を求める声が多い。これから欧州議会や,加盟各国の議会での立法化にあたり白熱した議論が交わされるであろう。

図4 廃プラスチックの食品包装へのリサイクルに向けて山積する課題
   出典:AIMS(欧州ブランド協会)のクリーンな再生材料と食の安全ガイド
図4 廃プラスチックの食品包装へのリサイクルに向けて山積する課題 出典:AIMS(欧州ブランド協会)のクリーンな再生材料と食の安全ガイド

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